第一章 シークレットナイトライド

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 例のウエハ評価で試作中の評価装置を使用したのだが、無理を承知で設備借用した為、彼に文句は言えなかった。 「いいよ、いいよ、ウエハの評価は終わっているし、それに、ウエハの評価データーは既に顧客に提出済なんだ」 「そうなんですか」 「ああ、そうなんだ。気にしないでくれ」  神崎が吉田にそう答えると、吉田はほっとした様子で作業現場に戻って行った。  神崎は保管庫の扉を閉めたが、気になってもう一度保管庫の扉を開いた。 「ウエハを再検査してみるか……」  保管庫の評価サンプルを眺めて神崎が考え込む。  この評価サンプルを受け取った時から、どうも違和感があったのだ。通常、半導体ウエハはシリコン(ケイ素)で作られている為、ウエハ表面が銀色に光るのだが、この評価サンプルのウエハ表面色は真っ黒だ。その理由は分かっている。表面に炭素皮膜が形成されているからなのだ。ただ、この炭素被膜に『どんな効果があるのか』が推測出来なかった。 (この炭素皮膜の下には一体何があるのだろう……?)  神崎はプロの技術解析屋として、この皮膜の下にある回路を技術解析してみたいと思った。しかし、サンプルの破断解析は許可されていない為、正確な技術解析は不可能だ。  神崎は吉田が作業をしている試作装置のエリアへ向かった。     
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