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第一章 シークレットナイトライド
――その電話が掛かってきたのは午後五時過ぎだった。
神崎は光学顕微鏡を覗きながらクリーンウエアのサイドポケットからPHSを取り出した。
※PHSは社内用の移動電話。
「はい、神崎です。ただ今、半導体ウエハの解析中です。手が離せないんですが」
※半導体ウエハは半導体チップの集合体。通常は半導体ウエハを超硬ブレードでカットして一つの半導体チップを作る。
「解析技術課の田町です。中村課長から電話が入っていますので転送します」
「課長?」
神崎が光学顕微鏡の接眼レンズから目を離して首を傾げる。
(何だろう? もしかして、顧客に提出した評価レポートの件か? 忙しくて時間が無かったから試作中の評価装置で実験したやつだ。これはまずいな――)
神崎は心当たりがあったので少し不安になった。
「神崎君、第一技術会議室に来てくれないかね」
「何でしょうか?」
「君に来客だ、新和開発社に提出した評価レポートの件で、ちょっとね」
「はい、分かりました。直ぐにそちらへ向かいます」
案の定、その電話の内容は顧客に提出した評価レポートの件だった。ただし、クレームでは無い様だ。
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