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プロローグ
銃声。叫び声。強烈な爆発音。
車のドアが吹っ飛び、窓ガラスが弾け飛ぶ。
燃え上がる炎、ガソリンの臭い。
「逃げろ! 美姫!」
「お父さん! お母さん!」
締め付けられる様な胸の痛み。
記憶の断片。もうろうとする意識。混沌。
優しい声。雑踏の中――誰かが呼んでいる。
「いつか、あの時計台の下で会おうよ、待っているからね……」
ああっと声を上げて、美姫は目覚めた。
「また、あの夢か……」
美姫は額の汗を右手の甲で払って、ふうっと小さく息を吐いた。
最近、美姫は同じ夢を繰り返し何回も見ている。それは、数年前に両親を亡くした時の夢だ。両親の記憶は一部が欠落していて、無理に思い出そうとすると頭が割れる様に痛んだ。
――田舎の小さな無人駅。
待合室のガラス窓から柔らかな陽光が射し込んでいる。
美姫は腕時計で時間を確認すると、椅子から立ち上がって駅舎のドアを開いた。すると、山から吹き降ろす春の風がドアの隙間から勢いよく流れ込んだ。
(まだ、胸が痛い……)
美姫が右手で胸を押さえながら駅前の風景を眺める。
視界の前方には高い山がある。もう四月の中頃だというのに山には雪が積もっていて山頂は真っ白だ。
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