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ふと視線を下げると、駅前の駐車スペースに白いライトバンが停車していた。
車のドアにXX市と書いてある。市役所の車の様だ。
市の職員らしき人達が、車の前で大きな紙の設計図を広げて地面を指差している。
(駅前の再開発でもやるのかしら?)
美姫が彼等の作業を見ていると、一人の青年がこちらに向かって歩いて来た。
年齢は二十歳位だろうか、彫りの深い顔立ちで、鼻が高く、胸部は厚みがあって頑丈そうな体格をしている。
「こんにちは」
彼は美姫に軽く頭を下げると、駅に設置された自動販売機に小銭を入れた。
「駅前に何か作るんですか?」
「時計台を作るんですよ」
「時計台?」
「ええ、小さな時計台ですけどね」
美姫が彼に尋ねると、彼は自動販売機のボタンを押しながら美姫に答えた。
彼の話によると、駅に隣接する新幹線に新駅が出来るので、周辺を舗装整備して歩道と公園を作り、駅前に小さな時計台を設置する様だ。無人駅は改装されて、この鉄道路線は第三セクターとして生まれ変わる。
「へぇー、新幹線の駅ですか……」
美姫は振り向いて、近くを走る新幹線の高架橋を眺めた。
「新幹線の新駅が出来るのは、まだ一年先ですけどね」
彼は自動販売機から缶コーヒーを五本取り出して、一本を美姫に差し出した。
「これどうぞ」
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