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第一章 旅立ち
――京都駅〇番ホーム。午前八時四十五分。
《特急サンダーバード七号 九時九分発 富山行き 〇番ホーム》
美姫は京都駅の中央改札口を通り抜けると、振り返って構内の電光掲示板を見上げた。そして、腕時計で時間を確認してから、〇番ホームの乗車口に並んだ。
三月の初旬、京都の朝は底冷えしてまだ肌寒い。それでも、時折、雲の合間から柔らかな陽光がホームに差し込むと、春の訪れが感じられた。
「美姫ちゃん、指定席にすれば良かったのに」
「いいですよ、裕美子おばさん」
叔母の三島裕美子が美姫に声を掛けると、美姫は右手を小さく振って裕美子に答えた。
「裕美子、窓口で指定席券を買って来いよ、千円位だろ」
「いいですって、浩史おじさん。勿体無いですから」
叔父の浩史が駅の窓口の方を向いて裕美子に催促をすると、美姫は浩史にも右手を小さく振った。
「もしかしたら混んでいるかもしれないよ」
「混んでいても敦賀か福井で座れますから」
「そうかい」
「大丈夫よ、浩史おじさん」
少し心配そうな顔をしている浩史に、美姫は笑顔で答えた。
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