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叔父夫婦は、とても親切だ。二年前に両親を亡くしてから、美姫は京都の叔父夫婦と一緒に暮らしている。美姫の両親が亡くなった時、叔父夫婦には三歳の長男と〇歳の長女がいて、育児で大変な時期だった。叔父の浩史は京都の中小企業に務めるサラリーマンで、三島家は決して裕福な家庭では無かったが、叔父夫婦は喜んで美姫を迎えてくれた。そして、それから二年の歳月が流れた。
「あっ、貨物電車や!」
甥っ子の健太が一番線を指差すと、貨物列車が駅の〇番ホームと二番ホームの間を駆け抜けた。
※京都駅には一番ホームが無い。一番線は貨物列車の通過用線路。
「カンガルー! カンガルー! お姉ちゃん、カンガルー!」
姪っ子の結衣は、コンテナに塗装されたカンガルーの絵を見つけて、美姫のスカートを引っ張った。
「ほんと、赤いカンガルーさんね」
美姫がしゃがみ込んで結衣を抱っこする。
「あっ、ペリカン! お姉ちゃん、次はペリカンさん!」
別のコンテナに塗装されたペリカンの絵を見つけると、結衣は小さな指を立てて、首を傾げながら嬉しそうにニコッと微笑んだ。
貨物列車がカタンカタンと音を立てて一番線を通過する。
「お姉ちゃん、いつ帰って来るん?」
「五月の連休に帰って来るわよ、健ちゃん」
「ふーん、五月か、はよ帰って来てな、テレビゲームひとりでやったら、つまらへんし」
「はいはい」
健太が美姫の顔を下から覗き込むと、美姫は結衣を抱っこしながら、健太の頭をポンポンと優しく叩いた。
しばらくすると、ホームのスピーカーから列車の接近アナウンスが入った。
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