1日目.禁じられた遊戯

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「北朝鮮は水爆も持っているはずだよ」  太郎が言った。前に、ニュースで北朝鮮の地下水爆実験を報じた事があった。 「100キロトンくらいの小型水爆だろ、結果は変わらんよ。昔、ソビエトが100メガトンの水爆を作ったが、作っただけで、爆発実験まではやらなかったようだ。最大の大気圏内核実験はアメリカがやった、第5福竜丸が被爆した20メガトン級のだった」 「100メガトンの爆発なら、どんな事が・・・」 「昔、ツングースで起きた爆発が、約100メガトン級と言われてるなあ。高度20キロから30キロで大きな隕石が空中爆発した事件だ。チェリャビンスクで起きた小さな隕石の空中爆発と同じで、水爆でやっても、地上に大きな被害が出るのは確実だ」  ふふっ、イム・ベーダーは不敵な笑いをもらした。 「それくらいの覚悟でやってくれたら、少しはおもしろくなったのに」  ぎくり、久麗爺は胃を抑えた。原爆の分析に夢中になり、地球が消去の危機のあるのを失念しかけていた。  ぴぴっ、イム・ベーダーの通信機が鳴った。ふむ、通信を受けて、眉間にしわが寄る。 「攻撃をした国が、何か放送したがっているようだ。彼らの電波を中継してやろう」  ぴっぴっ、イム・ベーダーは通信機を操作する。と、テレビの画が変わった。  じゃじゃーん、勇ましい行進曲が流れる。揺れる旗をバックに何かの銅像が立つ画になった。北朝鮮国営放送のスタート画面だ。 「ああっ、いつものおばさんだ」  太郎が声を出してテレビを指した。よくテレビを見るので、ピンクと青の民族服を着た年増女アナウンサーを知っていた。 「本日、偉大なる我らの金将軍の命により、我が国の空を侵す物へ正義の鉄槌を下した。このような攻撃をしたのは、世界で我が国だけである。今こそ、世界人民は朝鮮の先見的な存在に気付かねばならない」  同時通訳の字幕が画面にあり、何を言っているか分かる。いつもと同様、しゃべりはハイテンション、北朝鮮式ラップミュージックな感じ。  こきこき、イム・ベーダーは首をひねって鳴らす。つまらない・・・を態度に出していた。
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