1人が本棚に入れています
本棚に追加
操縦レバーから手を離して、久麗爺は腕組みした。ふう、興奮が冷めていく。
ディスプレイに映る前方の景色は朝鮮海峡、数歩先には津島がある。薄い何層かの雲の下、小さな島が散らばっていて、水平線上には九州があった。
「いかんな・・・こいつはロマンに欠ける」
「欠ける、とは? これがフルパワーを発揮すれば、この惑星の半分くらいは表面消去できる能力があるのだが」
「だろうなあ。しかし、そこがダメなのだ。こいつは大き過ぎる、強過ぎる。男のロマンとは、自分より大きな敵と、もっと強い敵と対する時にこそ最高調となる。こいつを貰っても、地球には戦う敵が無い。もしや、宇宙には、もっと凄い敵がいる・・・とか」
イム・ベーダーは笑みを浮かべたまま答えない。が、その表情が答えのようだ。
久麗爺は目を閉じた。宇宙の戦士となった自分を想像する。23号機を駆り、さらなる巨大な敵に立ち向かう・・・分を越える、と思った。
「わしが、あと十才若かったら」
久麗爺は隠居の身である。事業も家も息子に譲った。現役で頑張っている人がいる年頃ではあるが、我が身の分を思い、身を退いた。今更何を・・・と、立ち止まってしまう。
目を開けると、我が家の裏玄関前だった。転送は瞬時、微妙に気圧が違うせいか、ちょっと耳が痛くなった。
久麗爺と太郎は、ほっと胸をなでおろす。無事、SFな空間から帰って来られた。
ずずん、ずん、空震が家の屋根を叩いた。見上げれば、宇宙船が北へ動いている。もうすぐ、家は日陰ではなくなるだろう。
おもしろい・・・イム・ベーダーは言った。今日は、地球が消去される事は無いかもしれない。
けれど、もしも、他の国でも同じように訪問していたら。そこで、つまらないと感じたら。つまらないが、おもしろいを上回ったら・・・不安は尽きない。
最初のコメントを投稿しよう!