1日目.星から来たあいつ

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 昔々、空が落ちて来ると心配した人がいた。人々は無視するか、嘲笑した。だが、それが現実になる時が来た。  全長数百キロの巨大な宇宙船が地球の衛星軌道上に現れ、そこから数十キロサイズの小型宇宙船が群れを成して大気圏に降りて来た。正しく、空が落ちて来た。  キロメートル級の宇宙船は高度3万メートルほどで降下を止め、世界各地に散らばった。地球側に為す術は無い。ただ、向こうの出方を見守るだけである。  急に陽が陰り、窓の外が暗くなった。カタカタ、ガラスが震えた。  久麗均一こと久麗爺は湯飲みをちゃぶ台に置いた。天井や壁は振動しているが、床の畳は静かである。地震ではない、突風であろうか。  窓の外を見れば、特に草木が揺れている様子は無い。風は強くないようだ。  よっこらしょ、と気合いを入れて久麗爺は立ち上がる。七十才を過ぎた隠居の身には、急な姿勢変化は堪える。 「爺ちゃん!」  孫の太郎が来て、窓から空を指した。何かあるらしい。怪しい物事に対し、踏み出して探ろうとする姿勢は、さすが男の子。中学生になり、太郎の背丈は均一に迫っていた。  宇宙船が北海道へ接近する状況下、政府は全道の学校を臨時休校としていた。子供は親と一緒にいろ、と言う配慮。旭川のような地方都市では共稼ぎも多くない、家族が共に宇宙船を見上げる状況になるだろう。  久麗爺は科学屋の玄関に来た。壁の鏡を見て、薄くなった頭髪を再確認する。倉庫には作りかけの物が無秩序に置いてあった。何に手を付けるかは、その日の気分次第だ。  扉を開け、のれんをめくって外に出た。つっかけの足で空を見上げる。太郎も並んで見上げた。  隣の家では、二階の窓から空を見上げる顔があった。でも、すぐにカーテンを閉めてしまった。怖い物は見たくない、そんな心理か。  科学屋に並ぶ久麗木工家具の工場は臨時休業していた。工場は日曜日のように静かなのに、騒音が空から降って来る。
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