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いよいよ、宇宙船の機首が陸地にかかった。もちろん、速度はマッハ1前後。機首の拡大画像には、ゆらゆら蠢く衝撃波面がレンズ状に広がるのが映っていた。衝撃波面では気圧が急激に高くなる。気圧差がプリズムのように働き、はっきりと光線が屈折して見えた。地表面近くだけに、濃い大気の中で衝撃波面は強い。衝撃波面は断熱圧縮でセッシ80度以上の熱波をともなっていた。
あわわ、久麗爺は手で口をおさえた。
イム・ベーダーが言う高度1000メートルは、宇宙船下面から地面までの距離ではない。おそらく、船の喫水線と同じ宇宙船の基準線から地上までの距離だ。テレビに映る巾30キロの宇宙船は、厚みだけでも平均で4キロもある。地面ぎりぎりを腹這い飛行しているかのよう。下面から地面まで300メートルほどか。衝撃波の突風と熱波に加え、地上は輻射熱でオーブンの中に等しい状態だろう。
「うーむ、ミサイルが来ない」
「いや、近くの陣地にあったのは、衝撃波で吹っ飛ばされてると思う」
イム・ベーダーはサウジアラビアの反撃を期待していた。久麗爺は首を振って、その期待を否定する。
サウジアラビアの対空ミサイルは、移動式トレーラーで地上配備されていると推測できた。それが安上がりだからだ。しかし、爆撃には脆弱な配備法である。それ以前に、やはり地上に配備されている誘導レーダーが、衝撃波で吹っ飛ばされているはずだ。
ロシアやアメリカの地中サイロICBMならば、宇宙船の衝撃波に耐えらるだろう。しかし、日頃から世界の核バランスを主張する両国だ。対宇宙人とは言え、一方だけが核ミサイルを消費する状況に納得できるだろうか。
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