2日目.世界で一番熱い

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 ドローンから地上の映像が来た。  そこがメッカかは、もう分からない。突風と熱波で破壊された町並み、レンガ積みの建物が次々と崩れていった。人影は土煙にまぎれて、全く見えない。レーザーも爆弾も必要無し、巨大宇宙船が低空飛行するだけで、人間の造った文明が崩壊して行く。  これで、イスラムは永遠に宇宙人と敵同士だな。久麗爺はテレビを見ながら肯いた。 「おっ、来たぞ」  イム・ベーダーが嬉しそうに言った。  ドローンが接近する飛行機の編隊を捉えた。サウジアラビア空軍のF-15が高度8000メートルの高空から、F-16が高度3000メートルの低空から、計数十機の編隊が北東から迫っていた。しかし、長さ30キロの怪物に対しては、長さ20メートルほどのジェット戦闘機が何機集まったところで、正にカトンボの編隊だ。  昔、こんな映画を観たな・・・久麗爺は思い出していた。あの映画では、宇宙船はバリアーに守られ、ミサイルは当たる前に爆発した。  F-15がミサイルを発射した。F-16も発射した。幾十ものミサイルの噴煙が宇宙船に向かって行く。 「ああっ、やっぱり」  久麗爺は声をもらしてしまった。  ミサイルは宇宙船に達する直前、衝撃波面にぶつかって爆発した。巾30キロの衝撃波面がバリアーとなっていた。  高度1万メートル以上の空気が薄いところなら、あのミサイルも衝撃波面を突破できたかもしれない。が、高度1000メートルほどの濃い大気中では、衝撃波面はコンクリートの壁のように堅かった。  F-15は宇宙船の直前で急旋回、かわそうと回避し始めた。が、間に合わない。衝撃波面にぶつかり、空中分解した。破片と煙が衝撃波面に沿って散っていく。 「美しい・・・」  イム・ベーダーが目を潤ませて言った。 「耳をすませば・・・アッラー・アックバル、と神を称える言葉が聞こえてきそうだ」 「いや、家族の名前の方だと思う」  感動するイム・ベーダーに、久麗爺は冷ややかに応えた。
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