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南の空、太陽を隠して巨大な物体があった。噂の宇宙船が十勝岳から大雪山を圧し、旭川の上空に差し掛かっていた。北海道の中央を南から北へ縦断中のよう。
指を使って視野角を測る、前後左右とも60度弱といったところ。
「ふむ、ニュースでは、宇宙船の高度は30キロほどらしい。ならば、あれの長さと幅は30キロ以上と推測できる。先が旭川上空なら、後ろは富良野あたりか」
久麗爺は宇宙船を冷静に観察した。
目をこらすと、宇宙船の前方に薄い雲が膜状に発生している。衝撃波面であろうか。ならば、宇宙船の速度は音速を超えるくらい、秒速300メートル以上だ。一般の旅客機より3倍も高いところにいるので、ゆっくり動いて見える。
ずんずずん、また空震が家の屋根をたたいた。
「こいつは、宇宙船の先端で発生した衝撃波だ。それが地上まで達しているんだ」
上空を行く宇宙船は凸凹した形、衝撃波が機体の各所で発生している。ずずずん、空震は繰り返し来た。高度30キロでも、けっこう近所迷惑なのであった。年寄りには心臓にも悪い。
「長さ30キロの物が超音速で動くなら、100秒ほどで通り過ぎるはず。もう少しの我慢だ」
久麗爺は横で耳を押さえる孫の肩をつかむ。励ますのではなく、ふらついて支えが必要だった。空震で体が揺さぶられたせいだろうか。
日陰で風もあって、少し肌寒い。年寄りには苦手な状況、家の中へ戻ろうと思った。
「あれ、何だろう?」
太郎が久麗爺の袖をつかんだ。
言われて、太郎と同じ方を見た。
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