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テレビは別のドローンからの画になった。高層ビルの並ぶ都会、上空に全長30キロの宇宙船が現れ、落とす影で町並みが暗くなって行く。
また別のドローンからの画だ。日本人でも知っている場所、北京の中央、天安門前の広場だ。巨大な毛沢東の肖像画が門に掲げられ、共産党の威厳を現している。
北京の空はスモッグで灰色が日常、共産党大会などが行われる時にだけ青空になると云う。そんな北京の空が急に晴れ渡り、青い空と白い雲が見えてきた。宇宙船からの衝撃波がスモッグを吹き払っているようだ。
さらに低高度からの画、地上から数メートルで、道行く人の顔が見える。
と、道に立つ兵士が画面に指差した。彼らはドローンを見つけた。ライフルを構えて、ドローンを狙う。急に高度を上げ、画面は地上から離れた。
「芸の無い連中だ」
「いや、地球では、あれが普通の反応だと思う。日本では、鉄砲を街中で持ってるやつは少ないけど」
イム・ベーダーは口をへの字にする。なだめようとする久麗爺だが、内心は冷や汗ものだ。
「おじいちゃん、お茶とお菓子よ」
嫁の美智が戸を開け、盆を差し出した。もちろん、化粧もバッチリしていた。今朝と同じく、完璧な主婦を演じようとしている。
イム・ベーダーは頭を下げて礼をする。日本の習慣を熟知している様子だ。
宇宙船が舳先を上へ、やがて垂直に立った。腕を出し、足が出て、また身長30キロの人型に変形していく。
テレビでは、北京の天安門前の100メートル上空からでも、空にそびえ立つ巨大ロボットが見える。天高く雲を突いて立つ巨人を背景に、道路が渋滞し始めた。家へ急ぐ車が、巨大ロボットから逃げようとする車が、それぞれの思惑で鼻を突き合わせている。
巨大ロボットの足が地面に着いた。もうもうと土煙が上がる。ビル群が煙に包まれてみえなくなった、高さは100メートル以上か。突風で自動車の列も乱れた。
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