2日目.北京のゴーゴー日より

8/9
前へ
/63ページ
次へ
 体を起こし、肩が揺れる。けど、やっぱりギクシャクした動きの巨大ロボットである。何か変だ。 「スリラーだね、まだ明るいけれど」 「地球人になじみ深い曲の方が、何かと効果的と思った。見て聞いて、面白いだろう」  太郎が曲名を言い当てる。にやりとして、イム・ベーダーが答えた。  マイケル・ジャクソンの『スリラー』に合わせ、巨大ロボットが舞い踊る。ゾンビ踊りゆえ、ギクシャクがたがたと不規則な動きだ。  ♪I'm gonna thrill ya tonight, ooh baby  ♪I'm gonna thrill ya tonight, oh darlin'  ♪Thriller night, baby, ooh!♪  テレビで踊りを見る方は気楽なものだが、現地は大変だ。なにせ身長30キロのゾンビが手を振りステップを踏む。  腕の長さは10キロ以上、1秒で角度が30度動いても、先端速度はマッハ3以上だ。キロトン級の衝撃波が音楽に合わせて発生する。断熱圧縮が発生して、手足の先端は炎をまとっているかのよう。そして、ステップごとに1800万トンの地震動が大地を揺るがす。  足元の北京市内では、耐震基準の無い高層アパート群が将棋倒しに倒れていく。道路は波打ち、車が踊るように揺れる。天安門の毛沢東肖像画は壁から落ちて、地面でバラバラに砕けた。  ♪The thriller~thriller~thriller~ooh!♪  じゃんじゃん・・・音楽がフェードアウトして、巨大ロボットの踊りも終わって元通りの直立姿勢となる。静かになった廃墟寸前の北京を見下ろす巨大ロボットの画面。 「電波を返してやろう。はてさて、今度はどんな顔で放送するかな」  イム・ベーダーは通信機を操作した。テレビが日本のスタジオになった。緊張した顔のアナウンサーが席に着き、原稿をチェックしている。  久麗爺はリモコンの消音ボタンを押した。連中のキーキー声は耳にやさしくない。  胸をなで、気を落ち着かせる。今日、消去されたのは北京だけだ。今、本当に心配すべき事は地球全体の消去である。中国は日本に比べたら大きな国だが、地球全体からすれば、ほんの一部に過ぎない。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加