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原爆を連発しても、全長30キロの宇宙船には対抗できない。それが明らかになった。
地球の軍事力は無意味と化した。残る対抗手段はあるのか。やはり、別の科学的アプローチが必要と感じた。
「そうそう、そちらの何とか委員会が方針を決めた・・・と言っていたが」
何か別の話題を探した。で、この部屋にイム・ベーダーが現れた時の言葉を思い出した。
「うむ、明日だ」
「明日?」
ひく、ほおが動いた。
「ヘリオセ・スベータ型侵略を本格的にやる。地球側の代表は、久麗均一氏になってもらおう」
「え・・・わし!」
「場所は、この街で一番大きな観客席のある所、スタルヒン球場。時は、明日の朝、8時から。動きやすい服装で来たまえ」
「明日の朝、8時から・・・スタルヒンへ、動きやすい服で」
イム・ベーダーの言葉を、一々復唱してしまう久麗爺であった。
「戦いを本分とせぬ者が、意に反して戦いの最前線に立ち、全地球の運命を背負う・・・ドラマチックだろう」
にやり、イム・ベーダーは笑みを投げてきた。口元から大きな牙がのぞき、頭の角が栄えて見えた。
戦いを本分とせぬ者の戦いをドラマチックと感じるのは、勝って生き残った者だけだろう。あるいは、戦いの傍観者か。
じゃね、と軽い言葉を残し、イム・ベーダーが消えた。
きん、気圧の変化で耳が痛い。頭を両手でかかえ、久麗爺は床に身を投げた。
「爺ちゃん」
太郎が声をかける。
孫の声かけには、つい笑顔を返してしまう久麗爺だった。
「ヘリオセ・スベータ型侵略・・・地球の言葉では、暇つぶし。あるいは、退屈しのぎ・・・」
久麗爺は記憶を探り、宇宙人の真意を考えた。狩りとか釣りとか、他の生物の死や苦痛を前提とする娯楽が地球にも存在する。今回の侵略も同じと考えられる。
大事なのは生き残る事、消去されない事だ。
こんな爺いが地球の代表・・・と、宇宙人から指名された。宇宙人の暇つぶしに付き合うのは命がけになる、それだけは確かなようだ。
窓から指す陽が赤くなってきていた。
その夜は、また色々な人が四畳半に集合した。深夜まで結論の出ない話し合いを続けた。
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