1人が本棚に入れています
本棚に追加
久麗爺を乗せた車の行列は球場の駐車場に入った。
車を降りて、球場のスタンドを見上げた。わーわーっ、何やらにぎやかである。
出迎えた大山市長は落ち着かないそぶり。わーっ、球場内から声が起きるが、耳を逸らしたがる様子。
「こんだけ警戒してるから、観客はゼロかと思ったのだが」
「今日は、市民に対して開放してる訳ではない。彼らは検問がきかない、勝手に入ってしまった」
「市民じゃないとすると、誰なの?」
市長は口をつぐんだ。言いたくないらしい。
国道沿いに建つスタルヒン像に片手で挨拶、投球フォームをまねてみた。ちょっと腰にきて、本来の目的を思い出す。
スタンドへの入り口に向かって歩いて、息を飲んだ。鬼が入り口を塞いで立っていた。
身の丈は3メートルほどもある、むき出しの山のような筋肉が鎧のよう、猛牛のような頭の角が猛々しい。あああっ、右の鬼は口を開き、牙をさらして、今にも噛み付きそうな形相。んんんっ、左の鬼は閉じた口もとに牙がのぞき、太い金棒を軽々と担いでいた。
「武器の持ち込みは認めない」
鬼が角を振って言った。久麗爺の後ろに続く警官と自衛官に忠告だ。
広川と黒岩は拳銃を懐から出し、部下にあずけた。警官隊と自衛隊は外に待機、広川と黒岩だけが代表として同行する事になった。
鬼は左右に分かれ、通路を開けた。
すでに、スタルヒン球場は宇宙人の手に落ちていた。この先は地球の法律も常識も通じない場所、と覚悟が必要だ。
最初のコメントを投稿しよう!