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1塁側、直接グランドに通じるゲートをくぐった。
グランドへ踏み入る前に、もう感じた。建物は以前のままでも、耳に入って来る声が、言葉が日本語ではない。かと言って、テレビで良く聞く英語や中国語でもない。あえて喩えるなら、旭山動物園のサルやペンギンたちが騒いでるいるかのよう。
久麗爺と一行はグランドに入った。スタンドから背中へ声を浴びる。くえっくえっ、かーかーっ、どう解釈しても人語に聞こえない。
顔を上げて対面のスタンドを見れば、人外の物の怪たちで埋まっていた。形容のしようが無い姿と形の生物らしき者たちが席に着き、触手か触角のような物を振り回している。
「お爺ちゃん!」
突然、聞き慣れた声と言葉が耳に来た。
声の方向を探ると、バックネット裏の最前列に久麗一家が、息子の念努、嫁の美智、そして三人の孫たちがいた。それを囲むのは、もちろん異形の宇宙人たちだ。転送でやって来たのだろうか。
これは人質に等しい。何があろうと、ここから逃げ出せないようにされた。
久麗爺は市長らを捨て置き、足早にダイヤモンドの中央へ、ピッチャーズマウンドへと歩を進めた。
ひゅう、風を感じた。
「お早う」
イム・ベーダーがマウンドのプレートを踏んで立っていた。いつものメカメカして腕輪と首輪を着けた扮装である。転送して来たのだ。
「お早う」
久麗爺も帽子に手をやり、あいさつを返す。
「それが、動きやすい服なのか?」
「いや、その、嫁が・・・ね」
うむ、とイム・ベーダーは頷いて角をなでた。
「地球側の代表は来たぞ。そちら側の代表は?」
「もうすぐ来る」
イム・ベーダーは振り返り、南の空を仰いだ。すこし緊張して見えた、なんとか侵略委員会の理事ともあろう者が。
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