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キミノヒ・トミは手の扇子を捨てた。背をのばし、きつい視線で年寄りを責める。
久麗爺はキミノヒ・トミを見つめて、ここで気付いた。敵は我の中にいる、憲法よりも強力に戦いをジャマする物があった。男の煩悩が敵になっていた。
目標はキミノヒ・トミの頭の角飾りである。が、しかし、男の目はビッグなバストに、グレートなヒップにクギ付けだ。
あの大きな胸に顔をうずめて、幼児にもどって眠れたなら、これこそ至上の幸福。この世に生まれて、直ぐに見たのは自分の頭より大きな母の乳房だった。そこに全力でしがみついた言葉を持たない日々が、脳で鮮やかによみがえる。
「どうした、そちらが来ぬなら、こちらから行くぞ」
キミノヒ・トミが歩を進めた。やや前傾姿勢になり、猛禽類が獲物を狙う体勢である。
久麗爺は背を丸め、じりと後退した。自身の中の煩悩と格闘中なのだ、外敵と戦う状態にない。
「戦う気は無いのか? つまらんのう」
キミノヒ・トミがつぶやいた。
ぎくり、久麗爺は足を止めた。大事なのは勝ち負けではない、と思い出した。面白い、と宇宙人たちが感じる事が重要なのだ。地球が消去されず、人間が生き残るための条件だ。
ぱつぱち、自分でほおを叩き、自分に気合いを入れた。戦いの中で戦いを忘れそうになっていた。
とりあえず、憲法は無視しようと決めた。言葉遊びはベテランの憲法学者とかにまかせ、自分は目の前の戦いに集中するのだ。後で憲法違反と言われるかもしれないが、その時はその時だ。邪魔者の一つは追い払った。残るは男の煩悩・・・こいつは手強い。
昔、少しは柔道をやった。脇を締め、両手を前に出してかまえる。足の構えは右自然体である。
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