3日目. キミノヒ・トミは1万ボルト

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 呼吸を整えながら、久麗爺はキミノヒ・トミと対峙する。さっきより低い姿勢で距離を詰めた。  空気投げの原理は、相手が踏み込む方向に引き込み、バランスを失わせて自ら転倒させる。重心位置が後方にあれば成立しにくいはずだ。  ふと、さっきより心が落ち着いているのに気付いた。あの衝撃は強烈だったが、おかげで、男の煩悩が吹き飛んだようだ。 「目が覚めたか? さっきより良い面がまえであるぞ」 「ありがとう」  キミノヒ・トミの言葉に久麗爺は笑顔で応えた。しかし、戦いは別だ。  左足に体重をかけ、右足を前に出す。じりっ、やや変則な右自然体で間を詰めた。  しゅっ、久麗爺は踏み込んだ。でも、重心は体の中央、空気投げをくう心配は無いはず。  と、視界からキミノヒ・トミが消えた。右にも左にも姿が見えない。  どん、首と肩にショック、同時に重さを感じた。前傾姿勢が制御不能で深くなる。このままでは前のめりに転倒しそうだ。  実はキミノヒ・トミが久麗爺の頭に乗っていた。女とは言え、一人分の体重が頭にかかれば、プロレスラーでもなければ、普通は直立不能だ。  ととと、久麗爺は両手をつき、四つ這いで転倒を堪えた。急に頭と肩が軽くなった。  ふわあり、キミノヒ・トミは地面に降り立つ。  久麗爺は陸上短距離走のクラウチングスタートの要領でダッシュした。あと数センチで手がとどく・・・その一瞬前に、キミノヒ・トミは跳んだ。  手が空振りする。が、しっかり目は追っていた。  それはジャンプではなかった。キミノヒ・トミは飛んで、あるいは宙に浮いているように見えた。  地球の重力をキャンセルする物を身に着けているのか? いや、宇宙人であるし、彼らが持つ基本的な身体能力かもしれない。
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