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◇
もやもやの晴れない朝は、昨日の時任さんを思い浮かべたせいだった。今や慣れ親しんだものばかりが並ぶ部屋で、こんなに浮かない気持ちになるなんて馬鹿げている。休日は決まって少しのんびり起きるのが習慣になっていた。
遅めの朝食に、茹で卵とコスタリカ産のコーヒーを淹れた。インスタントの粉がシュワッと微かな音を零してお湯になじむと、酸味のきいた香りを薫らせる。壁掛けの油絵に目をやって、その瞼を薄く閉じた。
「今日はお天気ね」
レースのカーテンから差し込む光が油絵に描かれた緑を優しく照らしていた。そうだね、と彼が笑うのがわかる。その気配に心が落ち着くのがわかった。そうだね、洗濯日和だね。
昨日は散々な雨だった。散々な雨で、散々な一日。
「彼との同棲をやめる気はないの?」
時任さんにはなきんだからと彼行きつけの小料理屋に連れていかれて、二杯目の飲み物を選んでいたときだった。
「やめたくても、やめられないんです」
少し黙ってから、それでも正確な言葉を口にしたつもりだった。やめたい、幾度も考えたことはあったけれど、きっぱりと決断はできなかった。
「どうしても?」
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