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 昨日、あのどしゃ降りの中、帰り際に時任さんにきっぱりと言われたのだ。 「その夢がもし覚めたら、君には何も残らないだろうね」  孝文のことを話せた、唯一の人だった。なんでも話せたけれど、結局は向こうが私に好意を寄せていたのが分かってさよならをした人。彼の目に、私は哀れな女に映ったにちがいない。こうして孝文が現れなければ、せめて、自分が哀れなのだと気付かなくて済んだのに。今夜も雨が降ればよかった。その音で、その粒の嵐で、何もかもを遮断してほしかった。そんな期待も、雲一つないほどの空に虚しく消えていく。 「やっていけないって、なんだろうね。私は、私なしで立っていられる孝文が好きだった。それでも、私と立ってくれた孝文が」  この言葉を彼が理解することもないのだろうと思いながら、私はそう言った。
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