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 右手の薬指にもう二年は嵌めている指輪を見つめながら、どうしても、と返す。入口近くの席からは容赦なく降る雨が引き戸が開くたびに聞こえてきた。  洗濯物をバサッと宙に広げてしわを伸ばすと、洗剤の香りが鼻を満たした。たぶん、時任さんと会うことはもうないだろう。午後には美加子と会うことになっている。十年来の友人ばかりが占めるこの土地から、私はどうしたって離れられない。  高田馬場の駅からすぐの橋で落ち合うのが、なぜか昔からの決まりごとのようになっていた。今思えばなんとも胡散臭いネットビジネスというのをやっていた頃に、セミナーでよく見るいやに物事をはっきり言う女がいると思っていたら、いつの間にか腐れ縁みたいに仲良くなってしまった。それに、(たつみ)くんと瀬尾さん。  腕時計を見ると、待ち合わせにはまだ少し余裕がある。そう気付いて苦笑した。前は、誰と待ち合わせをしても遅れるのは決まって私だった。 「ごめん、待たせちゃった」  駅の方から小走りでやってくると、美加子が赤いベルトの腕時計を確認する。 「あれ、時間ぴったり。香澄早かったじゃん」  驚いたように言われて、また苦笑してしまう。 「今はまともに会社勤めだから、時間もちゃんとするようになったのよ」  嘯くでもなくそう返す。     
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