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懐古趣味みたいなものだろうか。あの頃の顔触れと会う以外、高田馬場にすら来ることなんかない。向いていなかったから、少しも稼げないままに私は一番にやめたのだ。
「あ、巽ならもう少ししたら来ると思うよ」
思い出したように美加子が言った。
「え?呼んだの私だけじゃなかったんだ」
「香澄だけなんて一度も言わなかったと思うけど」
あれ、というように彼女が首を傾げる。
「もしかして瀬尾さんも?」
あの頃よく集まっていた顔触れだ。背が高くて、若禿のせいで綺麗に丸めた頭が特徴の瀬尾さんと、猜疑心が強いくせに人に流されやすかった巽くん。
「瀬尾さんはもう何年も連絡とってないなぁ。だってたしか今、サンフランシスコ在住でしょ」
「え」
私がせっせと仕事に明け暮れている間に、周りの時間も進んでいるらしかった。私たちよりも五つほど年上のカラッとした性格の彼が、太陽の街でも元気にやっているだろうことは容易く想像できる。あまり小まめに連絡を取り合うような性質ではない私がこうして繋がっていられるのは、美加子のお陰だった。そうでなかったら、私の生活は孝文と仕事以外なにもないのだ。
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