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 巽くんが来るまでを、そうして近況報告に費やしていた。美加子が巽くんと付き合いだしたのは、もう五年以上前の話だ。ビジネス自体から足を洗って、年に数回会う程度に落ち着いたのは私だけだったようで、二人は知らないうちに関係を進めていたのだ。微笑ましいというべきか驚くべきか迷ったことすら懐かしかった。 「悪い、遅くなった」  慌てるでもなくそう言って、スーツ姿で巽くんはやってきた。休日出勤になったらしく、昼を跨いでようやく上がれたとぼやきながら自然に美加子の隣に腰を下ろす。ネクタイを緩める仕草が一丁前にサラリーマンです、と言わんばかりで心の中で笑ってしまう。スーツに着られているようだった頃から私たちはお互いを知っているのだ。 「で、なんだけど」  急に姿勢を正して美加子が口を開いて、巽くんに視線をやった。 「あぁ、まだ言ってなかったんだ。俺たち結婚するんだわ」  あっさりと巽くんが言う。  結婚――その言葉に急に息苦しくなるのが分かった。一年ぶりの再会の連絡と今日巽くんが来ることを聞いて、そんな気はしていた。別れていたら来ないだろうし、今更カップル二人と自分が会うのもなんだか妙だし。となればもう、大方の予想はできていた。 「やっとなんだ。おめでとう」 「ありがと。巽の昇進も決まって、ちょっと慌ただしかったからね。落ち着いてからにしようって話してたら、丁度その…」  気恥ずかしそうに言葉を濁す美加子に変わって、巽くんがその先を続けた。     
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