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けれど、熱はやがて冷めた。「アンが美しい世界を見る」というのが単に僕の望みでしかなく、彼女自身はそんなこと少しも望んでいなかったとしても、この現状は成立するということに気づいてしまったのだ。すべては〈神様の胃袋〉が僕を幸福にするために作りあげた虚構で、アンもそこに据えられた装置のひとつに過ぎない可能性は十分にある。
もし僕の疑念が真実だとすれば、あれはアンではなく、アンのようなものでしかない。ただ幸福だと囁いて僕を喜ばせるために存在している「提供者」だ。
疑い出すと、この景色も胡散臭い。あのカーネーションたちは、本当にあそこに咲いているのか? この渓谷には荒れた大地が広がっているだけで、実際には何もないのではないか? そもそも僕は本当に飛んでいるのか? 〈神様の胃袋〉が、そう錯覚するように僕を再構築したのではないと言い切れるか? 僕は確かに感覚している。けれど、僕が繋がっている先が世界ではなく、感覚を生み出す機械だということはあり得ないか? 疑念、疑念、疑念――
突然、視界が揺れた。
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