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 男の声は、間違いなく少女から発せられている。彼、あるいは彼女も、〈神様の胃袋〉に幸福を与えられた享受者なのだろう。何を望んだのかは想像がつかないけれど。  得体のしれない享受者の「落ちた」という言葉が、少しずつ記憶を掘り起こす。そう、僕は落ちた。多分、グライダーとハーネスの接続部分が壊れたのだろう。考えられないトラブルを招いたのは、確かにあの享受者の言うとおり、僕の点検不足だ。  けれど、点検する気をなくすのも仕方ない。 「……放っておいてくれればよかったんだ」 「どうして?」 「幸福なんか、もう食べ飽きたんだ。新天地なんか、もう用はない」  落ちる寸前まで頭を埋めていた疑念の数々を思い出す。これは強がりじゃない。紛れもない本心だ。 「そうか、君も擦り切れてしまったんだね」  ステーキを食べ終えた享受者は、カトラリーを置いて窓に目を向けた。つられて僕もそちらを見る。絶え間ない幸福に耐えかねた人々が辿り着く崖が、そこにあった。
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