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 幸福は転がっていないかと、滑空しながら探していた。  深い青色をした渓谷を見下ろしながら、探していた。  カーネーションの海が美しく在るのは、美しいと認識する主体がいるおかげ。誰にも目を向けられないのであれば、この景色だって荒れた大地と何も変わらない。ハーネスに取り付けた端末から流れる音楽も同じ。毎晩僕が口にするアンの料理も同じ。  つまるところ、幸福は僕らの中にしか存在しない。この頭の中、前頭葉で発火する独りよがり。それが幸福の正体。  それを嘆くほど、僕らは感傷的じゃない。〈神様の胃袋〉以前の世界、報酬系が怠け癖をつけた世界で、そういう事実を受け入れてきたのだから。  とはいえ、それとこれとは別。僕らがそういう風にできているならそれで構わないから、そんな憐れな僕らを満たし続けるように、世界は動くべきじゃないか。  だって〈神様の胃袋〉は、そのために作り上げられたのだから。
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