2人が本棚に入れています
本棚に追加
2
「お待ちどおさま」
スープから立ち上る湯気の向こうで、アンが優しく目を細める。組んだ手にあごを乗せて、僕の一口目を心待ちにしている。昨晩と同じように。
僕は何も言わずにスプーンを手にする。新天地に辿り着いてからの付き合いだけれど、こいつともそれなりに上手くやれるようになってきた。
新天地の新たな友を熱々のスープに浸し、持ち上げる。掬い上げた一口を、そっと流し込む。
「上手くなってきたわね、食器の扱いが」
「バカにしないでくれよ。お互い様じゃないか」
「それに、音も立てなかったし」
「うるさいな、構ってないで君も食えよ」
「ごめん、ごめんって」
アンはくすくす笑ってスプーンを手にする。僕の目を通してしか世界を見ることができないはずなのに、当の僕よりも上達が早い。
「こんなもの使いこなせたからって、なんだっていうんだ。こんな時代遅れの骨董品」
「あら、音楽を流しながらパラグライダーなんてする人が言うことかしら」
食器なんかと一緒にするな。以前ならそう言ってやったのだろう。けれど代わりに口から出たのは、子供じみた悪態だった。
「〈神様の胃袋〉なんてクソさ」
「どうして?」
「見てただろ。また身投げだ。もう何度目かわからない。みんな疲れ切ってるんだ。幸福を貪るのに」
「幸福の享受者なのに?」
「だからって、食わせすぎだよ」
最初のコメントを投稿しよう!