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〈神様の胃袋〉は世界と同じように僕らの有り様もある程度作りかえたけれど、「何を幸福と認識するか」というところまでは作りかえてくれなかったらしい。人格に関わる部分まで作りかえてしまっては、実質的な意味では誰も新天地に辿り着けない。それでは新天地など作る意味はないという、設計者なりの考えがあったのだろう。
〈神様の胃袋〉以前の嗜好を持ったまま新天地に辿り着いた幸福の享受者たち。そこまではよかった。けれど有り余る幸福を貪るうち、僕らは気付いてしまったのだ。幸福の味が分からなくなったことに。
擦り切れてしまったのだ。幸福を感じる主体である、僕ら自身が。
幸福とは変化の一形態。淀んだ現状に吹き込み、空気を入れ替える風。〈神様の胃袋〉の設計者たちはそんなことにも気づかず、新天地を幸福で満たしてしまった。少し息苦しい気がして窓を開けてみると、そこもまた幸福のこもりきった無風の部屋。享受者たちは今や窒息寸前だ。
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