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「これ以上ない幸せを散々味わいすぎて、幸福を感じる機能が壊れたんだ。端的に言うと飽きたのさ」
「私と暮らすのも? それはちょっと寂しいなあ」
「文句は設計者どもに言ってくれ。というか、僕こそ言ってやりたいよ」
「仕方ないわ。彼らはあくまで人間で、全知の悪魔じゃなかった。〈神様の胃袋〉が仕事を終えた後のことまでは、予想できなかったのよ」
「……そうだろうね。そうじゃなきゃ、あんなことにはなっていないはずだ」
アンが背を向けている窓から見える崖。僕が目撃した身投げの現場。
その上には、享受者の群れ。
「きっと、もう一度神様に会いたいんだ。この世界から抜け出して。その腕に抱かれるためか、唾を吐きかけるためか、それはわからないけどね」
「少し感傷的すぎるんじゃない? あれが彼らに残された、最後の刺激。ただそれだけよ。それより、私の方を見て。上手く食べられないわ」
落下していく人々が見えているはずなのに、アンは気に留めるそぶりも見せずにスープを啜り、パンをちぎる。
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