暴君な彼の者

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 深夜のシラクス。人けのない小さな屋内競技室。  忙しすぎる暴君は、こんな時間でなければ愛する者に会うことができない。 「遅い……」  眉間にシワを寄せ、イライラしながら待っている。  ふだんの王は冷静である。どんなに恐ろしい命令であろうと、覚めた瞳で淡々と下す。有能な王ではあるが、その冷酷な(さま)は人々に恐怖を与えた。  妹婿(いもうとむこ)を殺し、妹を殺し、賢臣(けんしん)アレキスも殺した。臣下に対して情け容赦はなく、派手な暮らしをしている者には人質を差し出すことを命じ、それを拒むと磔刑(たっけい)にする。  残虐非道(ざんぎゃくひどう)な暴君と言われているシラクスの王、ディオニス。  彼はとても不機嫌な顔をしていた。
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