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むかしむかし、小さな神様がいました。
花が大好きで村の辻の祠に住む、優しい神様でした。たまに花を手向けてくれる旅人には、小鳥の姿になって、美しい花を届けてやりました。
毎年、ある花売りの旅人が神様の前を通ります。美しい花をいつでも籠に背負って都へ出かけていくのです。
その旅人は、祠に花束を手向ける度にその花言葉を、古今東西の物語を小鳥に聞かせるのでした。
神様は大変喜び、慈しみ、愛しく思いました。語り掛けてくるものなど珍しいものでした。いたとしても、こんな面白い者は他にいなかったのです。野山の花を、旅人が望めばいつでも届けてやりました。
しかし、時が経ち、いつしかその旅人も訪れなくなりました。
山賊か、疫病か、老いか。
神様は悲しみましたが、ここから遠く離れられない限りはどうしようもないのでした。
やがて誰からも忘れられ、村が滅び、かつての祠が瓦礫として潰されてしまったとき。
小さな神様は、一つだけ、お願いごとをしました。
『どうか、神様――』
花の香りだけを残して、空に消えてしまったといいます。
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