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誰も居ない、寂れた屋上。足のないベンチに朽ちた廃材、塗装の剥げたコンクリート。
空を仰げば澄んだ色。金網は褪せたビリジャン。鳥の声は遠く。汚れた床を打ち消すように、背後に広がる木々の緑。
B校舎の屋上。
非常用ドアを後ろ手に閉めて、一歩だけ前へ踏み出した。
生来の茶髪は、作り物らしく映るようだ。針の刺さった仲間を真似て引っかけたイヤリング。愉快に響く軽い音。
軽薄に見られるのは慣れているし、実際そう振る舞っている。冷めても浮かされても、表でも裏でもない。ただ、どちらも本性だろう。
昼休み。大きく伸びをして、数回、咳き込んだ。
「風邪か」
ふわり、と花の香り。
鉄の非常口のその上に、貯水タンクの置き場から、風が運んできたらしい。
深くため息を吐く。古びた鉄ハシゴに手をかければ、赤い錆がべっとりと両手にこびりつく感触があった。
黒いズボンで乱雑に手を拭って、ハシゴを握りなおす。
古い貯水タンクが一つあるだけの、殺風景な場所。
セーラー服の先客が一人。俺に背を向けて、ボロボロの金網の前、段差に膝を抱えて、花束を横に置いて。
「ラミさん」
少女が振り返る。大人びた雰囲気 。毛先でカールした黒髪。白い肌。黒曜石のような深い瞳。俺を見つけて儚げに微笑んだ。
「カケス君、来てくれたの」
花の香り。
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