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 平日の植物園は、何も考えずに時間を過ごすには最適の場所のように思えた。  ひとりになりたかった、というわけではない。ぼくはいつもひとりだからだ。  入口で入場料を払って、ぶらぶらと歩く。梅雨入り前の空気がじっとりと重い。  紫陽花が見頃だそうだが、あえて盛りを過ぎたバラ園に行く。  残り少ない花をなんとなく眺めてから、屋根のかかった休憩所に向かった。  休憩所には先客がいた。30歳くらいの、長い黒髪の女性が、華奢な体をさらに縮めるようにして、黄色いプラスチックの椅子に座っている。  ぼくは彼女と適当な距離をとって座り、灰皿を引き寄せて、煙草に火をつけた。  かすかな風が、彼女の方へ煙を運んでいった。肩身の狭い喫煙者としては気になってしまい、彼女を見た。  彼女はしばらく同じ姿勢を崩さなかったが、ふと、白い手が動いた。膝にのせたバッグの中からシガレットケースとライターを取り出す。  ぼくはほっとしたような気持ちになって、彼女から視線をそらした。
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