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そろそろ紫陽花の時期も終わりだ、というある日のことだった。
数日ぶりの雨に私が公園に向かうと、ベンチにはもう彼が座っていた。出会ってから初めてのことだった。
彼は私に気が付くと、ひらひらと手を振った。
「こんにちは。今日もよく降っていますね」
「こんにちは。珍しいですね、私より先にここに居るなんて」
私が聞くと、彼は少し困ったように笑った。
「実は、今日でここに来るのが最後になりそうなので、少しでも長く花を見ていたくて」
「え、そうなんですか?」
私は傘を閉じ、ベンチに腰かけながらそう聞いた。
頻繁に来ていたから、私と同じように近所に住んでいるのかと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
「お家、ここから遠いんですか?」
「そうですね。……少し離れた場所にあります」
彼は寂しそうにそう言った。
「そうなんですね。少し残念です。挨拶するのを楽しみにしていたから」
「僕もです。でも、こればかりは仕方ありませんね」
私が別れを惜しむ発言をすると、彼は少し嬉しそうな顔をしてくれた。
それから、私達はいつも通り、静かに紫陽花を眺めた。
「紫陽花も、そろそろ終わりですね」
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