紫陽花

6/8
前へ
/8ページ
次へ
 私が言うと、彼もそうですね、と口にする。  「……もし」  それから、少しの間の後に彼が言った。  「もし、僕が紫陽花の精で、花に力がある間だけ、さらに雨の力を借りて、現世を行き来できる……なんて言ったら、驚きますか?」  それは、非日常的なこの空間においても、突拍子のない話だった。  「ふふ、あはは」  あまりにも唐突だったので、私は思わず笑ってしまった。  そんな私を見て、彼はまた少し寂しそうな顔をする。  「……なんてね。冗談ですよ」  彼はそう言ったが、私はそれを冗談だとは思わなかった。  「嘘。ふふ、笑っちゃってごめんなさい。信じますよ。もちろん、驚きましたけどね」  私が笑いながら言うと、彼の方がびっくりした顔をして私をじっと見てくる。  「信じてくれるんですか?」 「はい。だって、あなた何だか変わった雰囲気をしているし、すごく綺麗だし、毎回着物だし。……それに、いつも雨の日にしか来ないのに、あなたが傘を持っているのを見たことがないんですよね。濡れずに来られるはずがないのに」  私がそう言うと、彼はしまった、という顔をした。  「だから何というか、納得しました。そっか、人ではなかったんだなあって」     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加