0人が本棚に入れています
本棚に追加
私が言うと、彼もそうですね、と口にする。
「……もし」
それから、少しの間の後に彼が言った。
「もし、僕が紫陽花の精で、花に力がある間だけ、さらに雨の力を借りて、現世を行き来できる……なんて言ったら、驚きますか?」
それは、非日常的なこの空間においても、突拍子のない話だった。
「ふふ、あはは」
あまりにも唐突だったので、私は思わず笑ってしまった。
そんな私を見て、彼はまた少し寂しそうな顔をする。
「……なんてね。冗談ですよ」
彼はそう言ったが、私はそれを冗談だとは思わなかった。
「嘘。ふふ、笑っちゃってごめんなさい。信じますよ。もちろん、驚きましたけどね」
私が笑いながら言うと、彼の方がびっくりした顔をして私をじっと見てくる。
「信じてくれるんですか?」
「はい。だって、あなた何だか変わった雰囲気をしているし、すごく綺麗だし、毎回着物だし。……それに、いつも雨の日にしか来ないのに、あなたが傘を持っているのを見たことがないんですよね。濡れずに来られるはずがないのに」
私がそう言うと、彼はしまった、という顔をした。
「だから何というか、納得しました。そっか、人ではなかったんだなあって」
最初のコメントを投稿しよう!