始まりの時期に終わる花

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ボトリ、花を落とした。濃い紅色をした牡丹の花だった。 薄い意識の中で遠い昔のような夢を見た。 「冬の寒さにも負けない、この凛として咲く牡丹のようになりたいなあ」 と白くか細い手で花弁を撫でながら君は呟く。 「僕が叶えてみせる!」 と意気込んでは無知のあまり僕が剪定(せんてい) バサミを使い、切った牡丹の枝を空いている花瓶に差し込んだのだ。 それをしたのも、花が見たいと話す君に生きる希望を持ってほしいが為の自分なりの応援だった。 一面真っ白な病室に、 深紅のその花は本来あってはいけない物。 「僕の咲かす花はもう時期終わってしまうね。」 大病を患っている君が目を細める。そんな事はない。君はもっと生きるべきだ。父も母も家族がいるだろうと訴えた。美しい君は生きるべきだと。 すると君は黒々とした大きな瞳を見開いて僕を睨みつける。 「何を言ってるんだ。父も母も、…そして僕のことも殺したのはお前だろう。」 ハッとして自分の足元へ視線を落とすと赤黒いシミがいくつも付いていた。 「そんなっ…!」 突然の事に動揺し、僕は答えを求め君へと視線を戻す。しかしもう、無かった。病弱を思わせるほどの青白い肌に笑うと口から鮮やかな赤が覗く君の顔は、牡丹と共に落ちていた。 床に落ちた光が宿らないその瞳に映るのは鉄臭い赤がへばりついた剪定バサミ。 「…なれたじゃないか、牡丹のように。」
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