父さん、美味しいりんごを剥いてくれよ

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父さん、美味しいりんごを剥いてくれよ

お前の兄が死んだ。 突然、親父にそう言われた17歳の冬。 俺は親父が運転する車で高速道路を急いだ、学生服のままだった。 煽るように、雪が舞う。 時折、ワイパーで雪を払うとフロントガラスが冷たすぎるのか、凍てついた白いラインが引かれる。 兄貴がいるなんて聞いてない……。 「本家に向かってんの?」 「んだ」 親父は、田舎の豪農の出だったと母から聞いたことがある。 若い頃は派手に遊んでいたが、ある年の大型台風で没落したという。 田舎暮らしに嫌気がさし、家出同然にシングルマザーだった母と駆け落ちした為、親父は自分の姓を捨てた。 だから俺は、母方の姓を名乗っている。 想えば、母の親族とは毎年逢うが、親父の親族と逢った記憶はない。 俺は生まれてから一度も親父の実家に行ったことすらなかった。
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