父さん、美味しいりんごを剥いてくれよ

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本家、つまり親父の実家までは、車で2時間とかからない距離だった。 来ようと思えばいつでも来れる距離。 17歳にして初めて、自分のルーツの敷居を(また)いだ。 親族だけの集まり。 俺は、この場がお通夜なのかお葬式なのか、区別すらついていない。 喪服を着たこの見知らぬ人々は、俺と親父をどんな目で見ているんだろうか? 祭壇にかけられた遺影は、何となく俺よりも親父に似ている気がする。 優しそうな顔をしている。 享年34歳で結婚はしていない。 初めて目にした兄貴は今朝がた亡くなったという。 17歳も年が離れた弟の存在を知っていたのだろうか? 棺に入った息子と対面した親父。 親父の背中は小刻みに震えていた。 多分、泣いてる姿を見たのはこの時が最初で最後だ。 焼香を済ませ、トイレに寄った後、しばらく外に独りで居た。 法宴の会場に居づらかったからだ。 まさか、子供がいながら家出して再婚していたなんて。 17歳と言ったら、俺と同じ年齢だ。 もし今、親父が家出して勝手に離婚・再婚したら、俺は一生許さないだろう。 無責任すぎる。
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