父さん、美味しいりんごを剥いてくれよ

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俺は親父から一度も小遣いをもらったことがない。 お年玉さえも、母親からしかもらったことがない。 自営業で、仕事のない日は寝てばかりいる。 起きているときはずっと煙草を吸っている。 1日3箱も消費するチェーンスモーカーだ。 だから俺は、煙草が嫌いだ。 煙が苦手と言うわけではない。 だから隣で喫われても平気だ。 友達は皆喫煙するが、俺だけは喫っていない。 煙草には悪いが、逆恨みなんだ。 親父が煙草をやめさえすれば、それに費やすお金が小遣いになるんじゃないのか? それにしょっちゅう電気代が払えず、止められる。 蝋燭の炎で勉強するうち、視力も悪くなり、肩凝りも慢性的になった。 消費者金融からの取り立ての電話も、まだまだ酷い時代だった。 正確にはサラ金だけど。 幼い頃から、電話の向こう側の大人から恫喝を受けて育つ日々。 なのに、家では煙草ばかり吸っている。 だったら働きに行けよ。 俺は姉がそうしたように、独立して早くこんな家を出たい。 でも家出なんかしない。 だから、進学の志望先を全て県外にしている。 貧乏なお陰で奨学金の面接は一発で合格した。 自分の人生は、自分の力でハッピーエンドにしなければならない。
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