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向こうから、赤ちゃんを抱っこし、幼い子供を連れた女性が近づいてくる。
「ユウ君……でしょ?今日は兄の葬儀に来てくれてありがとう」
初めて逢う『姉さん』だった。
亡くなった兄より若いだろう。
つまり、中学生くらいの多感な時期に親父に捨てられたということだ。
本当に、前の家族にも俺達家族にも迷惑をかける厄介な男だ。
父親とすら呼びたくない。
俺は申し訳なさと同時に、行き場のない怒りを感じていた。
この女性とどんな顔をして、どんな話をすれば良いのか、分からない。
「お父さんから私達のことは聞いていないと思うけど……」
「……はい。知りませんでした」
「驚いた?私達は知っていたわよ。弟がいるってこと。
逢う日が来るとは思ってなかったけど」
「知っていたって、親父から聞いていたんですか?」
「そうよ。毎月お金を送ってくれて。手紙付きでね。
冬にはりんごを送ってくれた。
私、小さい頃からりんごが好きだったの」
「恨んでないんですか?
そんなことをされたくらいで、許せるもんなんですか?」
「……今は……恨んでないけど、許してない。そんな感じかしらね」
17歳だった俺には理解ができなかった。
ただ、親父なりに償いをしていたことは分かった。
それでも想う。
だったらもっと働け。
煙草なんてやめろ。
どう考えてもバッドエンドじゃないか。
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