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こっくりさんこっくりさん
ヤミの活動の大半は放課後だ。
夕暮れ時。
逢魔が時。
騒がしい外に反して、誰も居ない静かな教室は、ちょっとした秘密の部屋だ。
内緒の話。
相談事。
大事な告白。
こっそりと何かをするにはもってこい。
良くも悪くも、そんな部屋。そんな時間だから。
□ ■ □
窓辺で読書をしていたヤミはふと、文庫本から視線を上げた。
斜陽が彼の顔に学生帽の影を落とす。
向けた視線の先には窓ガラス。
そこには仲良さげに寄り添う、瓜二つの少年少女が彼を覗き込んでいた。
窓の外、ではない。その姿はよくよく見れば透けていて、窓の中に閉じ込められているようにも、映り込んでいるようにも見えた。
紫の髪に同じ色の瞳。少年は中間服を、少女は長袖の夏服を身軽に着こなしている。
揃って無邪気にヤミを覗き込む二人はカガミ。
いつだって二人でひとり。ひとりが二人の合わせ鏡だ。
「ヤミくん。2-Aではじまったよ」
少女のカガミが言う。
「今日はあんまり良くない日だね」
少年のカガミが言う。
「「きっと今日は大活躍だよ」」
二人のカガミが言う。
「最近流行ってんな……」
呆れたように言う彼の身体は、足元の影から境界が揺らめいていた。
それは、誰かがどこかで、彼を呼び出すための手順を踏もうとしている証拠だ。
「ホントにね」
「ネットでも流行ってるみたいだからね」
「それでアレンジされちゃったりしてね」
「どうせ失敗するのにね」
交互に開く口から出る声も、外見同様そっくりだ。
男女らしい差が多少はあるものの、気を抜けばどっちが喋っているか分からなくなってしまう。
だが、それはいつものこと。大事なのはその内容。
彼らの言葉に同意はすれど、歓迎はできない。
とはいえ、流行っている物は仕方ない。噂話は素直に従うしかないのだ。そうしないと己の存在意義が揺らいでしまう。
カガミは文庫本を手にしたままのヤミを急かすように言葉を重ねる。
「ほらほら早く」
「ほら早く」
「「急がないと大変かもよ!」」
口々に喋る彼らを視線だけで黙らせて、ヤミは溜息をついた。
「はいはい、行ってくるから」
そう言いながら本に栞を挟む。
ぱたん、と閉じた音が消えると。
窓辺には斜陽に照らされるカーテンと、灰色の栞が挟まれた文庫本だけがあった。
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