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□ ■ □
春。
真新しい制服に身を包んだ新入生達がやってくる日。入学式。
女子のセーラー服に男子の学ランという昔ながらの制服は、中等部にも一部を変更して採用された。
女子生徒のスカーフはリボンとなり、男子生徒はボタンの図柄が変更された。
中等部と高等部。制服は些細な違いで遠目では分かりにくいが、生徒達が新しい季節に染まっているということには変わりない。
体育館に集まるざわめきには、新生活への期待と不安が入り交じっている。
そんな生徒達を眺める影が、屋上にあった。
「やー、賑やか賑やか。これはいよいよ楽しくなってきたよ」
ひとりはセーラー服に紺のカーディガンの少女。
襟とスカーフだけはこだわりであるかのようにしっかりと出して整えてある。焦げ茶の髪は襟をすぎた辺りを流れており、ぱつんと揃った前髪は顔の半分を覆っていて目元を伺うことはできない。
表情が唯一読める口元は外を行く新入生達と同じように楽しそうだ。
「……お前は毎年気楽だな」
もうひとりは学ランをきっちりと着込んだ少年。
中等部の新入生に混ぜても随分と小柄。両側に大きく跳ねた髪は黒く、深くかぶった学生帽の影になっている目は金色の三白眼。憂うというより不機嫌そうに、頬杖をついて口を曲げている。
少女はそんな少年を見て「おやおや」と小さな息をついた。
「ヤミちゃんはなんだか憂鬱そうだな」
「おかげさまで」
「いやいや、ボクはそんな褒められるようなことはしていないさ」
飄々とした声で彼女は笑い、少年――ヤミへ向けて「そんなことよりもさ」と楽しそうに続ける。
「そんなことよりだよ、ヤミちゃん。相も変わらずそのように睨み付けるような眼をしていると、幸せも怖がって逃げてしまうぞ?」
少女の言葉に、ヤミはげんなりと肩を落とす。
「この眼は元からだって……。大体さ、ハナ。俺の目つき程度で逃げる幸せってなんだよ」
ヤミは口を尖らせる。ハナ、と呼ばれた少女はそんな彼にすすっと近寄り、頬をつついてにんまりと笑った。
「ボクらの幸せは、この学校でのびのびと過ごすことだよ。それがハナブサさんとの約束だ。忘れたのかい?」
「忘れちゃないけど……」
春は憂鬱なんだ、とヤミは小さく吐いた。
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