入学式にて

3/5
前へ
/144ページ
次へ
「そうかそうか憂鬱か。ああ、知ってるとも。だがボクは敢えて聞く!」 「いや、知ってるなら聞くなよ」  ヤミの声は、さらりと揺れた髪に阻まれて届かなかった。 「それは新入生が来るからかい? 中等部ができて人数が増えたからかい? まあまあ、言わなくたって分かってるよもー、心配性だなヤミちゃんは。友達ならすぐできるさ」 「そうじゃない。大体、在校生に友人作ったってどうしようもないし……ったく、お前は気楽すぎるんだ」 「ボクは気楽が取り柄だからね。それに、これまでだってなんともなかっただろう?」 「お前は俺らのピンチの数も数えられなくなったか?」  ヤミは大きく溜息をつく。  彼らの視線の下で、新入生達はぞろぞろと体育館へと吸い込まれていく。 「ハナ。俺達は学校の怪談だぞ。生徒にその存在を示さなきゃならないし、呼ばれたら応えなくちゃならない。けど……面白半分で呼ぶにはリスクがでかすぎる」 「リスク? ボクは別にそうでもないはずだが?」 「お前はお前の行動次第だから」  大体さ、とヤミは愚痴るように列挙していく。 「春は新入生歓迎で肝試し。夏は納涼で肝試し……」 「秋は残暑で肝試しで、冬は……うん。特にないか。ほら、まったりしてるじゃないか」 「冬だけな?」  ヤミは新入生達から目を離し、仰向けに寝転がった。  目を閉じると、日差しで温まったコンクリートが背中をじわじわと温める。  瞼に残る空の色は淡く、日差しは穏やかだ。  校内で咲いている桜はきっと、この空に映えるに違いない。  ヤミはなんとなく、そんなことを思った。  いつの間にか生徒達の声は静かになり、変わりのように年を刻んだ男性の声が響き始めた。 「いやしかし入学式かあ。なんだか懐かしい気もするね」 「そうか? 俺は忘れた」 「そうかそうか。なに、君が忘れてもボクが覚えているよ。あの頃の君は今より背が高くて――」 「ハナ」  ヤミの声がワントーン下がったのを察知して、ハナの声がぴたりと止まった。 「――全く」  ハナはくすりと笑う。
/144ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加