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「そうかそうか憂鬱か。ああ、知ってるとも。だがボクは敢えて聞く!」
「いや、知ってるなら聞くなよ」
ヤミの声は、さらりと揺れた髪に阻まれて届かなかった。
「それは新入生が来るからかい? 中等部ができて人数が増えたからかい? まあまあ、言わなくたって分かってるよもー、心配性だなヤミちゃんは。友達ならすぐできるさ」
「そうじゃない。大体、在校生に友人作ったってどうしようもないし……ったく、お前は気楽すぎるんだ」
「ボクは気楽が取り柄だからね。それに、これまでだってなんともなかっただろう?」
「お前は俺らのピンチの数も数えられなくなったか?」
ヤミは大きく溜息をつく。
彼らの視線の下で、新入生達はぞろぞろと体育館へと吸い込まれていく。
「ハナ。俺達は学校の怪談だぞ。生徒にその存在を示さなきゃならないし、呼ばれたら応えなくちゃならない。けど……面白半分で呼ぶにはリスクがでかすぎる」
「リスク? ボクは別にそうでもないはずだが?」
「お前はお前の行動次第だから」
大体さ、とヤミは愚痴るように列挙していく。
「春は新入生歓迎で肝試し。夏は納涼で肝試し……」
「秋は残暑で肝試しで、冬は……うん。特にないか。ほら、まったりしてるじゃないか」
「冬だけな?」
ヤミは新入生達から目を離し、仰向けに寝転がった。
目を閉じると、日差しで温まったコンクリートが背中をじわじわと温める。
瞼に残る空の色は淡く、日差しは穏やかだ。
校内で咲いている桜はきっと、この空に映えるに違いない。
ヤミはなんとなく、そんなことを思った。
いつの間にか生徒達の声は静かになり、変わりのように年を刻んだ男性の声が響き始めた。
「いやしかし入学式かあ。なんだか懐かしい気もするね」
「そうか? 俺は忘れた」
「そうかそうか。なに、君が忘れてもボクが覚えているよ。あの頃の君は今より背が高くて――」
「ハナ」
ヤミの声がワントーン下がったのを察知して、ハナの声がぴたりと止まった。
「――全く」
ハナはくすりと笑う。
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