入学式にて

1/5
前へ
/144ページ
次へ

入学式にて

 常和第三学園には、ひとつの噂話があった。 「この学校、七不思議があるんだって」 「あ。聞いたことある。あれでしょ?」  生徒達は知っている逸話を口々に列挙していき。  そして誰もが同じ結論に達する。 「……七つどころじゃないね」 「……うん、ちょっと……いや、かなり多いね」  曰く。  怪談話がとても多い。  □ ■ □  常和第三学園は郡部にある学校だ。  市内にあった旧制常和中学。  生徒が増えたのを期に、遠方の生徒が通いやすいように作られたという第三校舎が、この学校の前身だと校史にはある。  かつては分校とも呼べたその学校は、現在ではそれぞれが独立した文化を持つ高校となっている。  今年は常和第三高校創立百年という節目に当たる。  常和第一、第二高校という兄弟校と同じように、常和第三高校も「常和第三学園」と名前を改め、中等部を設立した。  学校の周りは緑と住宅地。静かな環境は、学生達をのびのびと育てるには良い場所だった。  すぐ傍にある高台は城跡であり、学校もその敷地の一部。あちこちに名残が見える。  地域から愛される、地元に根付いた学校。  市街地の中にあり、繁華街にも近い第一、第二高校とは、生徒の雰囲気も随分と違う。  最も大きな差は、近隣に遊ぶ場所が少ないということだろう。  そのためか、アルバイトも原則禁止のため、放課後は部活動や勉学など、学内での活動に重点を置く生徒が多い。    別の視点で言えば、退屈だとも言えた。  育ち盛り、遊びたい盛りの少年少女には、時に息苦しい空間だったかもしれない。  だからこそ、学校内で数多の噂話が広がったのではないか、と誰かは語る。  それもまた、噂話だけれども。
/144ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加