失くした色

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失くした色

この日、世界から〈色〉が消えた。  最初は漫画の描き過ぎで、私の眼がおかしくなったのかと思った。  だが、どうやらただの色盲とかとは違うらしい。どうも、初めから世界には〈色〉が無かった事にされているのだ。 「〈色〉? なんだいそれは? ははは、久遠君はおかしなことを言う少年だな。君も理科で習っただろう? 目に見える風景は全て光という電磁波の反射だ。そして、それらは全て光の明暗で表されて視えるんだよ。ほら、この歴史教科書の写真も見てごらん。世界は白黒で全て表されるんだよ」  とまぁ、保健室の飯垣先生に相談してみてもこんな感じの講釈を垂れるだけだ。しかし、この説明ももっともと言えばもっともと感じて、そう言われてみれば昔からそうだったような気がしてくるから不思議だ。 世界がおかしいのか……私がおかしいのか……  早々に保健室を追い出された私は時間つぶしの為に美術室へと向かう。まだ昼休みは残っているし、何よりあのやかましい教室に戻りたくない。それに美術室は油絵がたくさん並んでいて、油絵の具の匂いが落ち着くのである。 「まぁ、どっちでもいいか……。どうせ世界にとって私はどうでもいいように、私も世界のこ
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