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――頭の中は至って冷静だった。
今も尚、私の腰あたりにクロスするように回されている腕をまたゆっくりと解く。
起きる気配なんて一向に見せない史弥の大きな手に、黒いスマホを近づける。
人間はこれ以上ないってくらいに追い詰められた時に、その人のモラルが見えるらしい。
もし私が純粋だったら。
もし私が素直だったら。
綺麗で美しくて眩しくて、
そんな在りもしない未来をバカみたいにただ直向きに追い続けることができる人間だったなら。
きっと――こんな行動は起こしていなかっただろう。
そして私は史弥の親指を押し当て、スマホの指紋認証のロックを解除した。
こんなこと一度だってしたことなんかなかったのに、その自分の手つきは“慣れて”いたように思う。
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