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「ねぇ、史弥」 「…ん?」 「言うの忘れてたんだけど、お揃いの茶碗をこの前割っちゃったんだよね」 つい2日前、洗い物をしているときにうっかり手を滑らせて茶碗を割ってしまったのだ。 あの茶碗は2人で温泉旅行に行った時に私が一目惚れしたもので、史弥が買ってくれたものだった。 そんな大切なものを壊してしまったのが申し訳なくて「ごめんね」と小さな声で謝った。 そんな私に、史弥は髪を撫でる手を止めずにいつものように優しく微笑んで、私の額に自分の額をコツンと当てた。 「気にしなくていいよ。怪我は?してない?」 「…うん」 「そんなに落ち込むなよ。また新しいのを買おう。な?」 旅行先で買ったものだし、それも一年ほど前のことだ。 …きっともう、同じものはない。 その事実にまた心が沈んだけれど、笑顔を返して頷いた。
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