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伸ばしていた手がピタリと止まる。
同時に時間も止まってしまったような感覚に陥る。
ドクンッ――ドクンッ。
次第に大きく、煩くなっていく自分の鼓動の音しか聞こえない。
まるで世界に取り残されたような、そんな感覚だった。
まるで自分だけが切り取られて異空間にいるような、そんな感覚だった。
人間というのは愚かなものだとつくづく思う。
“勘違い”だと、“聞き間違い”だと、そう自分に言い聞かせるのが最良だって解っていた。
それができないなら、今すぐにでも史弥を叩き起こして問い詰めれば良かったんだ。
“ミカって誰?”って。
耳を塞ぎたくなるようなヒステリックな声を上げて、目を逸らしたくなるような悲痛な表情を浮かべて、そう問い詰めれば、
…きっと、史弥は私の欲しい言葉をくれた。
“知らないよ”って。
“聞き間違いだよ”って。
きっと清々しいほどに、まるで嘘じゃないと思わせるように、嘘を吐き出してくれただろう。
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