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「……は?」
次は予想もしていなかった答えが返ってきて、思わず渇いた声がぽろりと零れ落ちる。
そんな俺から気まずそうに視線を逸らした雫は「…だって」と小さな声で言葉を紡ぐ。
「…先週も出張で週末を一緒に過ごせなかったし…」
「……、」
「…香坂さんの帰りが遅い時は私が先に寝ちゃったりで、ゆっくり過ごす時間がなかったから……その、寂しくて…」
ポツリポツリと、まるで水滴が落ちるように紡がれる言葉の全てが俺の心臓を鷲掴みにしていく。
恥じらうように伏せられた瞼、憂いを帯びるように揺れる睫毛、微かに震える赤い唇。
目の前の雫の全てが網膜に、胸に、焼き付く。
「…香坂さんが忙しいのは分かってるんで、これは不満とかじゃなくて――っ、ん」
もう、限界だった。
雫の言葉を遮るように、その小さな唇に自分のそれを押し当てた。
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