第4章

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道理で、鉢合わせになる確率が高いわけだ。 最寄りの駅が違っていても、行き着くところがほぼ同じならあらゆる場面で出くわすこともあるだろう。 もしかしたら知り合う前も駅や電車内、あのコンビニですれ違っていたのかもしれない。 そう思うと、つくづく世間は狭いのだと実感する。 「どうせ “うわ、最悪?” とか思ってんだろ」 頭の中でそんなことを考えていると、ふいにそんな聞き捨てならない言葉が投げかけられて、ハッと我に返る。 視線を高層マンションから香坂さんに移した私は、咄嗟に口を開いた。 「…っな、そんなこと思ってません!」 ついつい声が大きくなってしまう。 驚いていただけで最悪だなんて微塵も思ってないのに…。一体、香坂さんにとって私はどれほど失礼な女に見えているんだろう。 珍しくキッパリと断言した私の言葉さえ、この人は本気と捉えていないらしい。 「本当かよ」と、ますます眉を寄せたりなんかするから、私も躍起になって「本当です!」と、またもや大きめの声でそう返した。 そんな私を相も変わらず冷たい視線で見下ろしていた香坂さんは少しの間を置いて、 「まぁ、どっちでもいーけど」 自分から噛み付いてきたくせに、あっさりとそんなことを言い捨てる辺り、本当にマイペースな人だと思う。 もう話しは終わりだと言わんばかりに、間髪入れずに「じゃーな」と言ってすぐに踵を返した姿を見て、私は咄嗟に声を上げていた。 「あ、あの!」 呼び止めた私の声に、首だけで振り返った香坂さんは「なんだよ」と、やっぱり眉を寄せていた。
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